俺の目の前で、宇宙最強のエイリアンハンターであり、宇宙最悪のハゲこと星海坊主が、地球の安っぽい居酒屋のテーブルに突っ伏して号泣している。
「ウッ、ウオォォォ! 神威のバカ息子が、あんな天使みたいなお嬢さんを……! しかも俺のことを『お義父さん』って呼んでくれたァァァ! 江華ァァ、俺たちの息子が、ついに真っ当な幸せを掴んだぞォォォ!」
うるさい。殺すぞ。いや、マジで一回死んだ方がいいんじゃないか、このハゲ。周囲の客が完全にドン引きしてこっちを見ている。俺は手元のどんぶり飯(本日十杯目)をかき込みながら、殺意を120パーセント込めた笑顔をハゲに向けた。
「ねえ、親父。そのツルツルの頭頂部に俺の番傘ぶち込んで、文字通り血の花を咲かせてあげようか? 彗羽(すいは)ちゃんが優しいからって、あんまり調子に乗らないでくれる?」

「だってよォ!」親父は涙と鼻水をティッシュで拭いながら、まだグズグズと言っている。「お前みたいな戦闘狂のバカ息子に、あんな出来た嫁が来るなんて思わねーだろ! 宇宙的歌姫? しかも夜兎!? おまけに料理が壊滅的ってところ以外は完璧じゃねーか!」
料理のことは言うな。俺の胃袋と愛情でカバーする問題だ。俺はため息をつき、テーブルの上の唐揚げを串で乱暴に突き刺した。
「当たり前でしょ。俺が選んだんだから。それに、彼女はただの『出来た嫁』じゃないよ。親父でも、うっかり気を抜いたら一瞬で首が飛ぶくらい強いからね」
そう、彗羽ちゃんは強い。俺が今まで戦ってきた誰よりも、美しくて、残酷で、そして圧倒的に強い。その事実を思い出すだけで、腹の底からゾクゾクするような歓喜が湧き上がってくる。

親父は鼻をすすりながら、急に真面目な顔つきになった。「……お前が『誰かと生きる』ことを選ぶ日が来るとはな。江華(こうか)のことがあってから、お前は強さだけを求めて、全部切り捨てるつもりだと思ってたぜ」
その名前に、俺の指先がわずかにピクリと動いた。昔の俺なら、即座にテーブルを蹴り飛ばして殺し合いに発展していたかもしれない。でも今は違う。
「切り捨てたわけじゃないさ」俺は笑みを深めた。「ただ、俺にとっての『最強』の証明が、少し変わっただけ。彗羽ちゃんはね、俺と同じなんだ。何も持たずに、泥水すすって、毒を食らって生きてきた。でも、彼女は自分を失わなかった」
あの細い体のどこに、あんな途方もない痛みを隠しているのか。烙陽の西区、あのゴミ溜めみたいな場所で、たった一人で太陽に焼かれながら生きてきた彼女。初めて彼女の過去の日記を読んだ時、俺の中に芽生えたのは同情じゃない。果てしない独占欲だった。

「……お前、変わったな」親父は眩しいものを見るように――いや、お前の頭の方が眩しいんだけど――目を細めた。「あの子は、お前の『弱点』になるぞ。それでもいいのか?」
「弱点?」俺は鼻で笑った。「親父は本当にバカだね。守るものがあるから弱くなるなんて、それはただの言い訳だ。俺は、彼女という最上級の『弱点』を抱えたまま、宇宙の誰よりも強くなる。彼女が永遠に俺の隣で笑っていられるようにね」
それに、彗羽ちゃんは守られるだけの弱いお姫様じゃない。俺の背中を預けられる、唯一の相棒だ。彼女が俺を弱くするはずがない。むしろ、彼女の存在そのものが、俺の血を沸き立たせる最強の起爆剤なんだ。
「それにね」俺は意地悪く笑った。「彗羽ちゃんは俺のことが大好きだから。親父みたいに、嫁さんに置いていかれたりしないよ」
「グハッ!」親父は胸を押さえてテーブルに突っ伏した。「お前、言うに事欠いて……! パパのガラスのハートはもうボロボロだぞ!」

「神威くーん! お義父さーん!」
居酒屋の入り口から、パタパタと足音が聞こえてきた。神楽と一緒に地球のスイーツ巡りをしていたはずの彗羽ちゃんが、両手に紙袋を抱えて小走りでやってくる。
黒い髪に星のヘアピンがキラキラ揺れて、控えめに言っても宇宙一可愛い。17歳の外見のままで時を止めた彼女は、まるで奇跡みたいに美しい。
俺は即座に立ち上がり、先ほどまでの殺意と毒舌を180度転換させて、とびきりの笑顔で彼女を迎え入れた。「おかえり、彗羽ちゃん。重かったでしょ? 貸して」
「ありがとう、神威君! あのね、神楽ちゃんと一緒に地球のクレープっていうのを食べてきたの! すごく美味しかったから、神威君とお義父さんにも買ってきたんだよ!」
彗羽ちゃんがふわりと笑う。その無防備な笑顔を見た瞬間、親父が再び「ウオォォォ! 天使ィィィ! 江華ァァ!」と号泣し始めた。

「ちょっと、親父。俺の彗羽ちゃんに気安く声かけないでくれる? マジで殺すよ?」俺は笑顔のまま親父の頭に唐揚げの串を突き立てようとした。
「神威君、ダメだよ! お義父さんをいじめちゃ!」彗羽ちゃんが慌てて俺の腕を掴む。その小さな手の温もりが、俺の狂気をあっさりと溶かしていく。
「……彗羽ちゃんがそう言うなら、今回は許してあげる」
「ふふっ、ありがとう。はい、これ神威君の分! イチゴと生クリームがいっぱい入ってるやつ!」
彼女から手渡された甘い匂いのする物体を受け取りながら、俺は彼女の細い腰に手を回して、自分の方へと引き寄せた。彗羽ちゃんは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに俺の胸にすり寄ってくる。
ああ、本当に。この引力には逆らえない。

宇宙最強の称号も、血湧き肉躍る闘争も、全部彼女の足元に転がしてしまってもいい。そう思えるくらいには、俺はこの甘い猛毒に、骨の髄まで侵されているらしい。
でも、そのことは親父には絶対に教えてやらない。
俺はクレープを一口かじり、隣で幸せそうに笑う彗羽ちゃんの髪にそっとキスを落とした。
「美味しいね、彗羽ちゃん」
「うんっ! また一緒に食べに来ようね、神威君!」
親父のすすり泣く声がBGMみたいに響く中、俺はただ、腕の中の確かな熱だけを強く抱きしめていた。